紫式部の「源氏物語」と言えば、誰もが知っている日本文学の最高峰です。さぞ格調が高くお淑やかな文章が続くのかと思いきや、非常に品の無い、悪ふざけのような描写もちらほら登場致します。
その最たる例が「末摘花(すえつむはな)」という姫君にまつわる物語です。
平安貴族の間では、初めて一夜を共にする男女はお互いの顔を見ないというのが一種の美徳であったようなのですが、日本文学史上最大のプレイボーイである「光源氏」も、末摘花と、闇夜のなか顔を合わさずに一夜を共にします。これは、まことにしみじみとした趣深い夜でした。
その翌朝です。光源氏は、ほのかな雪明りに照らされた末摘花の姿を初めて見るのですが…「その顔が不細工過ぎて唖然と」してしまうのです。
ひ、ひどい言われ様です。。
末摘花は、物語中に何度も滑稽な役回りで登場します。一説によると、紫式部は、長い長い物語の中で、読み手に笑ってもらえるような息抜きの機会を作ったのだそうです。
末摘花に関するこのようなくだりを読んでいてふと思ったのです。人の顔のことを「不細工過ぎて唖然とした」だなんて述べる非紳士的な行為は、何らかの罪に問えるのではないでしょうか。
ということで今回は、光源氏に「侮辱罪」が成立するのではないかということを大真面目に考えてみようと思います。
侮辱罪は、大勢の人の前で他人を馬鹿にした場合などに成立します。大勢の人に伝わってしまいそうな方法で他人を馬鹿にした場合にも成立します。
光源氏は「この姫は馬のように長い赤鼻で実に不細工だな」と「心の中」で思っただけのようですので、大勢の人に伝わるわけではありません。とすると、侮辱罪は成立しないようにも見えます。
しかし、源氏物語の語り手は「古女房」、すなわち宮殿に長らく仕えていた女性です。そうすると、古女房は上のような光源氏の心情を知っていたわけです。ということは、光源氏は、古女房本人かその周囲の人々にそう話していたことになります。そして、古女房が、こうして我々に語っているわけです…。
完全に、大勢の人に伝わっています。
したがって、光源氏の「末摘花が不細工過ぎて唖然としたという気持ちを古女房らに話した行為」には侮辱罪が成立する可能性が大いにあると言えるでしょう!
(…だからなんなんだ!という読者諸賢の声が聞こえてくるようです。。)
なお、末摘花の名誉回復のために、少々知ったかぶりをしてでも述べておきたいことがあります。
彼女は、実は古風で芯の通った気高い女性なのです。窮地に陥っても周囲の意見に流されることなく、最終的には光源氏の尊敬と愛を得ることになります。
紫式部が、事あるごとに末摘花を小馬鹿にする描写をしてきたのは、悪ふざけなどではなく、彼女が高貴な心を持った人間であることを描き出すための伏線であったのかもしれません。
ー弁護士の徒然草ー
以前この欄で「ミルク類でお腹を下す」ということを書いたのですが、「自分も同じだ」と言ってくれる方が結構いらっしゃいます。
日本人は、それこそ平安の昔から牛乳など飲まずに生きてきたのです。牛乳なんてものを飲み出したのは、突如西洋文化が入ってきたここ最近の事なのです。牛乳など飲めなくても、一向に問題はないのです!
以上、牛乳の味は大好きなのに怖くて飲むことのできない人間の、負け惜しみでした。
弁護士 佐山洸二郎
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