「復活」は、ロシアの文豪トルストイ大先生の長編作品群のうちの一つです。この作品では、様々な社会制度への批判がなされています。
国家権力の象徴たる裁判という制度についても、非常に小馬鹿にした、ほとんどコメディタッチの描写が多々登場します。私の立場としては「けしからん、それは馬鹿にしすぎだ!」と怒らなければならないのですが、あまりにもひどくて笑えるので紹介させていただきます。
まず、裁判長の描写は以下の通りです。
…「裁判長は、なんとか早く事件の審理を進めて、例のスイス女のところへかけつけようと考えていた。証拠の調べが終わると、裁判長は審理の終了を宣告した。そして、一刻も早く解放されたさに、休憩を抜きにして、直ちに検察官の論告をうながした。」…
スイス女とは、浮気相手のことです。裁判長は、早くスイス女のところに駆けつけたかったのか、休憩も省略し急いで裁判を終わらせようとしています。裁判長…浮気はしてはいけません。まして人の不貞を裁く立場にあるのですから!この裁判長はこの後もずっと「早くスイス女のところに行きたい」としか考えていないようです。
次に、検察官はこんな風に描かれています。
…「この検察官は生まれつき頭の鈍い人間であったが、不幸なことに、中学校を金メダルで卒業し、大学ではローマ法における用益権に関する論文で賞をもらったので、この上なく自惚れが強く、何事も独りよがりであった。この人のモットーとするところは、常に自分の立場の高さを誇示することにあった。」…
検察官もひどい描かれようです。トルストイ先生はまるで「頭は悪いがたまたま検察官になれてしまったナルシスト」とでも言いたそうです。さらにはこの検察官が締めくくりの文章を朗読している間、裁判官たちは「いやはや、どうも脱線ぎみですな」「あきれた馬鹿もんですな。」などとささやいている始末です。この検察官、トルストイ先生からも裁判官たちからも小馬鹿にされて、何だか可哀そうです。。
さらにこの後、弁護人も、裁判制度自体も、トルストイ先生からボロボロに攻撃されることになります…が、長くなってきたのでその紹介は次回に譲りたいと思います。
―弁護士の徒然草―
「復活」のヒロインの名前はエカテリーナというのですが、作品中では専らその愛称である「カチューシャ」という言葉が使われています。カチューシャというと女性用ヘアバンドの一種かなということくらいは知っていたのですが、なんとその語源がこのヒロインの「カチューシャ」の方にあるそうです。トルストイ先生の影響力、恐るべしです。
弁護士 佐山洸二郎
Comments