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009 車輪の下の弁護士

更新日:2019年2月25日


 「車輪の下で」は、ヘルマン・ヘッセの代表作の一つです。ヘッセは少年の精神的成長の過程を描いた作品が多いのですが、本作では非常に勉強熱心な少年ハンスの儚い一生が記されています。

 この作品には、弁護士はおろか、法律のほの字も登場しないので、本稿のタイトル「車輪の下の弁護士」は意味の無いこけおどしなのですが、ハンスの受験や学生生活が、現代日本の司法試験などに通じるものがあるのです。

 物語中でハンスは、難関の神学校の入学試験を受けます。その試験の1日目が終了し、周りの受験生と一言二言試験内容についての会話を交わすのですが、その短い会話の中で「ハンスが全く意味を知らない用語が、少なくとも2つは出てきた」ので、ハンスはすっかり自信を無くしてしまいます。

 また、周りの受験生とよくよく話していると、どの人も経歴や家系がやたらにエリートで、今でいう中堅家庭の生まれに過ぎないハンスはすっかり萎縮してしまいます。

 もっとも、ハンスの試験結果は、ただの合格どころか、その順位が2位での合格という物凄いものなのでした…。

 司法試験でもこれらと似たような事がよく起こります。

 論文式試験の正解は一つではなく、様々なルートから多様な正解に辿り着くことが出来るのです。当然ながら、正解も誤答も含め、受験生ごとに多彩な内容の論文が出来上がります。

 したがって、試験後に周りの人間と試験内容について話すと、ハンスと同じように「全く知らない用語」や「一見正しいように見える誤答」というものがわんさと出てくるのですっかり混乱してしまい、翌日以降の試験に影響が出かねないのです。なので、試験直後にその内容を話し合うことは受験生の中ではタブーとなっていると言っても過言ではありません。

 また、これまたハンスが経験したのと同じように、周りの人々の経歴がとにかく優秀なのです。両親が裁判官だったり、元スチュワーデスだったり、既に公認会計士資格も持っていたり、飛び級を繰り返しやたらに若かったりと、とにかくハイスペックな人物がごろごろいるのです。

 ハンスと同様(?)、しがない中産階級の生まれで、経歴を見渡しても特に飛び抜けた点が無い私などは、すっかり萎縮してしまうのです…!

 というのは大袈裟ですが、受験を控えている方もそうでない方も、是非読んでみて下さい。なにやら、書評のようになってしまいました。



ー弁護士の徒然草ー

 作中でハンスの親友が、熱心に勉学に勤しむハンスに向かって「そんなの日雇い労働だよ」と言い放つ場面があります。

 日雇い労働……、この発言には様々な意味が込められているのでしょうが、司法試験受験中でせっせと勉学に勤しんでいた当時の私は、まるで自分がそう言われたかのように考えこんでしまうのでした…阿呆ですね!

弁護士 佐山洸二郎

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