今回はニーチェの「ツァラトゥストラかく語りき」に出てくる奇妙な学者の話にテーマを借りて、弁護士の仕事について考えてみようと思います。
ある日ツァラトゥストラが沼地を歩いていると、うっかり人間を踏みつけてしまいます。まさか沼地に人間が横たわっているなどとは予測できないでしょう。これだけでも驚きですが、その人間の腕を見てみると…大量のヒルに血を吸わせて血だらけになっているのでした…。
ツァラトゥストラも驚いてこの人間に何をしているのか尋ねると「ヒルの脳髄を専門に研究している」とのことです。「ヒルの脳髄」だそうです。
沼地に横たわってヒルに血を吸わせ、その脳の部分のみを専門に研究する学者…ほとんどヘンタイです。ところがこの人の話をよくよく聞いてみると、妙に考えさせられてしまう鋭い見通しを持った事を言うのです。
いわく「ヒルという一つの生物の生態を底の底まで知り尽くすということは、途方もなく広大なことだ。どうして私にそんな向こうみずなことができるだろう!だから私が専門の大家であるのは、ヒルの脳髄に限るのだ。」と言います。実に謙虚な態度です。
一つの学問の大家になるということは、それだけ前途多難だということが言いたいのでしょう。弁護士の仕事であっても、離婚事件、相続事件、借金問題、不動産問題、企業法務、窃盗事件、殺人事件、詐欺、恐喝、横領…と、様々な事件があります。どの分野も、専門の大家になろうとすれば並の人間では一生かかっても足りないでしょう!それほど一つ一つ奥が深いのであり、軽々しく専門家を名乗ることはできないのです。そう考えると、このヒルの脳髄学者の言うことももっともです。
ただ、こんなことを言う弁護士がいたらどうでしょうか。
「窃盗という一つの犯罪についての刑事弁護を底の底まで知り尽くすということは、途方もなく広大なことだ。どうして私にそんな向こうみずなことができるだろう!だから私が引き受けるのは、窃盗の中でも60歳以上の高齢の方による100円以下の駄菓子の万引き事件に限るのだ。したがって、あなたの依頼をお受けすることはできない。」
弁護士も、お客様のお役に立てなければ意味がありません。自分の専門分野を深く研究する一方で、お客様の依頼に幅広く応えられるようにするというのが理想です。
そんなことを考えながら、今日もせせこましく勉強をしております。
ー弁護士の徒然草ー
先日ひそかに連絡先を掲載してみました。すると大変有難いことに、気付いてくれた方が連絡を下さいました。
「あまり役に立たない内容でくだらないものも多いが、たまに面白いことが書いてある。今後もめげずに頑張ってください。」
…めげずに頑張ろうと思います!
弁護士 佐山洸二郎
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