
刑事裁判では「被告人質問」という手続があります。法廷において、裁判官や弁護人、そして検察官らが被告人に対して質問を行うことができるのです。事件の張本人である被告人に対して質問をし、その受け答えや態度を観察し吟味することによって、被告人が犯罪を犯したのかどうか等を判断するためです。被告人からすれば、自分に対して刑罰が下るかどうかという重大な場面ですので、非常に慎重に答えなければならないでしょう!
この被告人質問において、文学史上最もとんでもない受け答えをしたのが、カミュの「異邦人」の主人公、ムルソーです。
ムルソーは、アルジェリアの灼熱の太陽が照らすビーチで休暇を過ごしていたのですが、自分に襲い掛かってきたアラビア人を射殺してしまい、殺人の罪に問われ、刑事裁判にかけられます。
ところがムルソーは、被告人質問において「なぜ銃を撃ったのか」と問われ、あろうことか「太陽が眩しかったから」と答えてしまいます。
日常生活の場面でこんなことを言っても「ハハハ…、(この人とはちょっと距離を置こう。)」と思われるくらいで済むかもしれませんが、法廷でこんなことを言ってしまえば…。
ムルソーのこの意味不明な発言によって、裁判員からの信頼や情の念は一気に崩れ去ってしまいます。最終的にムルソーには死刑が宣告されます。
ムルソーにつけられた刑事弁護人も、ムルソーに会って早速「法律的にまともなアドバイス」をするのですが…アクの強いムルソーに一蹴され、ポカンとしてしまいます。そして法廷でもムルソーの刑を軽くしようと色々と頑張るのですが、何しろ予測のつかないムルソーの言動に翻弄され、次第に疲弊していきます。そして、この刑事弁護人の努力もむなしくムルソーには死刑判決が下ります。何だか可哀想ですね…文学に登場する弁護士の中では比較的まともで善良な人のようなのですが、何しろ相手が悪すぎたようです。。
文学的には「太陽が眩しかったから銃を撃った」という意味深なテーマについてあれこれ考えるのが醍醐味なのですが、法学的には全くあり得ない発言となってしまうのでしょう。
同じく、ムルソーは、文学的観点からは非常に魅力的な変人なのですが、刑事弁護人的観点からは…とてつもなく厄介な人物のようです!

ー弁護士の徒然草ー
「太陽が眩しかったら」皆様ならどうするでしょうか。私なら、太陽が眩しいような天気の良い日には、ビールが飲みたいです。もっとも「太陽が眩しくなくても」ビールは飲みたいですし、「月が綺麗でも」ビールは飲みたいです。一日の予定が済めばビールを飲みたいですし、運動した後にもビールが飲みたいです!要するに、大体いつでもビールが飲みたいです。
この後もちょっと、ビールを飲もうかなと思います。
皆様もいかがですか?
弁護士 佐山洸二郎
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