ノルウェーの劇作家イプセンの代表作「人形の家」では、主人公の女性の夫が弁護士です。主人公の女性は「…弁護士なんていうのは、生活ということになると、とっても不安定なものよ。殊に上品で正直な仕事ばかりをやっていこうと思えばね。もちろん夫はそういうことしかしないでしょう。」と夫を褒めたりしています。ここからは、なかなか高潔で、清貧とさえ言えそうな立派な弁護士像が見えてきます!
もっともこの夫は、主人公の女性のことを「リスさん」だの「歌を唄う可愛いヒバリちゃん」だのと、あたかも人形のように猫かわいがりしています。傍から見ているとまるで阿呆のようですが、本人としては大真面目なのでしょう。その反面、主人公の女性のことをまともな人間扱いせず、その意見などは真面目に取り合わないのです。次第に主人公の女性も嫌気がさし始め、最後には愛想を尽かして出ていってしまいます。この「人形の家の弁護士」は、あまり人の気持ちの細部がわからないようです。可愛がってさえいれば良いと思っていたのでしょう。
一方で、本作には「法律代理人」なる人物が登場します。これも現代日本にいう弁護士と同様の種類の職業のようです。
主人公の女性は、夫を助けるための借金をするにあたり、契約書に偽署をしてしまいます。それくらいは大したことないだろうと考えていたようですが、刑法にいう「有印私文書偽造罪」という立派な犯罪です。法律代理人はそれを見抜き、主人公の女性を脅しつけます。主人公の女性は「私は夫を助けるために偽署をした。法律は、夫を助ける権利を妻に与えていないのか。」と反論しますが、法律代理人は「法律は動機のいかんを問いません。わたしがこの書類を裁判所に持ち出せば、あなたは法律によって処罰される。」と追い打ちをかけ、見返りを要求します。いわば法律の悪用です。もっともこの法律代理人は、最終的には主人公の女性の善意を理解し考えを改め、脅迫することをやめます。
以上この二人の法律家を見比べると「立派な内容の仕事をしているようだが、妻の気持ちは理解できない弁護士」と「法律を悪用し脅迫まがいのことをしつつ、最終的に人の気持ちは理解できる法律代理人」というようにも表現できそうです。どちらも、一長一短です。
この二人を見ながら私としては「上品で正直な仕事をし、脅迫などはもちろんせず、人の気持ちも大いに理解することができる弁護士」になりたいななどと、都合の良い事を考えたりもしていますが、まあ…、道は険しそうです!
―弁護士の徒然草―
西洋文学の中でも、特にフランス文学なんかでは「パンと葡萄酒」という食事がよく出てきます。この組み合わせは、やたらと色々な作品で登場します。それも「衰弱しきってうろついてる主人公に、とある民家の住人がパンと葡萄酒を恵んだ…」みたいに、実に効果的に出現します。そこで私も、腹を空かせた状態で、その場面を想像しつつ、「フランスパンとワイン」という組み合わせを試してみたのですが…これは微妙でした!民家で施しを受ける場面のような質素さを醸し出すために、あえて味付け無しのフランスパンにしたのが原因かもしれませんが…。やはり定番通り「ピザとワイン」等の組み合わせが一番のようです。
弁護士 佐山洸二郎
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