今回は、シェイクスピアの有名な「ヴェニスの商人」の中の裁判を題材とします。
この作品の基本的なあらすじは「悪質な高利貸しのシャイロックが法の下で情け容赦ない取り立てを行うが、最後は自分が逆に法に裁かれることになる。」といういわゆる勧善懲悪の物語であり、読み終わると胸がスッとするものであります。しかし見方を変えて読んでみると…
まず、契約書の解釈が無茶です。シャイロックの契約書には「金が返せなかった場合には相手の心臓付近の肉1ポンドを切り取ることができる」と記されています。この契約書に基づきシャイロックは勝訴判決を得るのですが、なんと裁判官は「肉1ポンドを切り取ることは許されるが、血は1滴も奪ってはならない。」というおよそ不可能な解釈を施します。それも判決後にです。
そこでシャイロックはその不可能さを察知し、肉1ポンドを切り取ることは諦め、引き下がろうとします。しかし裁判官は、「一度宣言したからには引き下がることは許されない」などと言い出し、引き下がる場合にはシャイロックの土地も財産も没収しようとします。なお、根拠となっている法律は不明です。
そして極めつけとして…皆さんもご存じのように、この裁判官は「贋者」です。有名な法学博士を装って、正義の味方のように颯爽と現れたヒロインです。
他にもまだまだありますが、この作品中の裁判は現代の感覚からはおかしな点が多々見られます。シェイクスピアは、「悪質な高利貸しをこらしめる物語」という面の他に、意図して「中世のずさんな裁判実態の暴露」という側面を持たせたのではないかとすら思いますが、このあたりは専門の研究書に任せるとして…。
シャイロックにもきちんとした弁護士がついていれば、また違う結果となったのではないかなと思わざるを得ません。何しろ「贋者の裁判官が、不可能を、後出しジャンケンのように要求する裁判」なのです。
ところで目を転じて、現代の裁判は果たしてどうなっているのでしょうか…。ヴェニスの商人を読みながら「そういう理不尽に逐一ケチをつけていけるような弁護士にならなければならないな」などと思うのでした。
ー弁護士の徒然草ー
文学の中の食事等の場面を読んでいると、やはり自分も食欲をそそられてしまいます。例えば、「ジャンヌは朝起きたらベッドの上でまずミルクコーヒーを一杯飲み、それから一気に起き出すことを長年の習慣としている。」なんていうのを読むと、「ああミルクコーヒーおいしそうだなあ、飲みたいなあ、それに朝起き抜けで飲むなんて実に美味しそうだ!」などと思ってしまいます。ただ私はミルク類でお腹を下す体質のため、ミルクコーヒーは飲めません。
弁護士 佐山洸二郎
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