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002 虫になる前後で

更新日:2019年2月25日



 「ある朝、なにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫になっているのを発見した。」という一文から始まるのは、フランツ・カフカの「変身」です。この作品については無数の研究や論評が存在するので、今さら素人の私が口を挟む余地などは全くありません。したがって今回は法学へのこじつけ的考察を行いたいと思います。


 「朝起きたら自分が虫になっている」という出来事は理不尽です。無茶苦茶です。これは試練だ、などと思い込む余地もないほど意味不明な事態です。出来れば事前に対策を打っておきたいと考えるのが普通です。

 この事前の対策を法律の世界では「予防法務」と言ったりします。問題が発生する前にあらかじめ法的整備を行ったり、リスク回避の手を打っておいたりすることを言います。「変身」の世界では、「朝起きたら虫になっているということを事前に防ぐための対策」ということにでもなるのでしょうが、それを考えろというのはもちろん無茶な話です。しかし私達の日常世界では、事前に対策をしていれば発生を防ぐことができる法的問題というのが想像以上に多いのです。この事前の対策をお客様と一緒に考えるのも弁護士の仕事の一つというわけです。


 一方で、実際に問題が生じてしまった後に行うべき行動等を法律の世界では「紛争解決」と言ったりします。例えば裁判や和解はおおむね紛争解決に含まれます。ドラマや小説などで弁護士や法律が絡むのは大抵この紛争解決の場面なので、予防法務に比べて馴染みが深いと思います。

 この「変身」で面白いのは、自分が虫になっていることを発見した主人公は、多少じたばたするのですが、すぐに「さて、どうするか」と仕事の事などを考え始めてしまう点です。「俺の仕事って大変だよなぁ。」などと呑気な事を考えだします。自分が虫になった事自体はひとまず全面的に受け入れ、その理由や原因は一切考えません。しかし私達の世界では紛争解決の手段をとると共に、問題が発生してしまった理由や原因を反省し、同じことを繰り返さないことも重要です。これをお客様と一緒に考えるのも弁護士の仕事の一つです。


 かなり無理のあるこじつけのような気もしてきましたが、「予防法務」と「紛争解決」という観点について、万が一でも皆さまの法律理解に役立てば幸いです!


 ―弁護士の徒然草ー

 朝目覚めて自分が虫になっていたとしたら、皆様ならどうするでしょうか。私なら、もう一回寝ますね。それでもだめならすみやかに諦め、森なり草原なりに帰って行きたいです。

 「変身」の主人公も二度寝を試みていますが、どうやら平たい形状をしているようである虫の身体ではいつもの習慣通り右を下にして寝ると痛くてしょうがないらしく、すぐに諦めています。…そこにそんなにこだわる必要があったんでしょうかねえ。

弁護士 佐山洸二郎

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